巷の釣り関係の趣味サイトの多くがリールしかいじったことのない子供で、あまりにもプラシーボ効果と「チューニングメーカー」の美辞麗句に侵されたオカルト的なものばかりで頼りにならなかったので、改めて調べてみた。自分は油脂製造メーカー勤めでもプロの機械整備士でもないが、バイクやらクルマやらパソコンやら、機械いじり歴は長い。
まず、グリスは粘度の高いオイルではない。グリスは石けん系と非石けん系に大別される。
石けん系は、基油(潤滑の主役: "Base Oil" 「きゆ」とも「もとゆ」とも)、増ちょう剤である金属石けん(一般的には全体質量の20%前後)、添加剤からなる。金属石けんは、脂肪酸とカルシウム・リチウムなどの金属をアルカリでけん化させたもので、非水溶性、親油性の繊維(太さ数ナノメートル、長さ数ミクロン)の集まり。繊維の強さ・耐水性・耐熱性などの性質は、けん化の際に添加する金属ごとに特徴がある。ごく平たく表現すると、石けんグリスは増ちょう剤という微細なスポンジにベースオイルを含ませたものと言え、石けん繊維間からオイルが適度に滲み出すことによって、擦れ合う部品どうしを持続的に潤滑することができる。最後の添加剤は、酸化防止剤、錆止め、耐荷重添加剤など。モリブデングリスは「モリブデン石けんグリス」ではなく、一般的にはリチウム石けんグリスに、添加剤としてモリブデン化合物を加えたものだ。リチウム石けんグリスは、何かの面で突出した優越性があるわけではないが、「欠点がない」優等生グリスと言われる。
非石けん系は、それ自体に粘りや潤滑性を持つPTFE(PolyTetraFluoroEthylene=フッ化炭素樹脂)・ウレア樹脂(Urea=尿素)などと、シリコンオイル・フッ素オイルなどの基油を混合したもの。平たく言うとプラスチックのペーストだ。基油と増ちょう剤と添加剤の境界が曖昧で、ほぼ似たような組成の製品でも、名称がPTFEグリスだったりシリコングリスだったり、PTFEベースと書かれていたりPTFEは添加剤扱いだったりとまちまち。主な非石けんグリスは、ウレアグリスを除き、高荷重部位には向かない。ウレアグリスが高価なのは200度・300度という耐熱性の価値と言ってよく、リールを10,000rpmで巻きギアを赤熱させる超人にとっては意味があるかもしれない。普通の人間は、その分を、良い基油や添加剤を使ったリチウム石けんグリスに注ぎ込む方が徳だ。
自分もいろいろと間違ったことをやってきた。PTFEグリスとリチウム石けん二硫化モリブデングリスのブレンドとか。別の種類(ブランドの話ではない)のグリスを混ぜると、組成の異なる増ちょう剤が互いに影響を与えて、硬化したり逆に軟化したりオイル保持力が落ちたりして、ほとんど改悪にしかならないというのがグリスの常識。そこにあるのはマイブレンドの自己満足だけだ。二硫化モリブデンはベアリング効果を持つが、そもそもバス釣り道具のどこにそんな馬鹿力が掛かるのか。我ながらアサヂエだった。ちなみに、二硫化モリブデンは、潰れると硫黄を発生させるので樹脂を侵す可能性もある。手回しリール程度の負荷で、問題になるほど発生するかは疑問だが。有機モリブデングリス(黒でなく黄土色)は硫黄の発生はない。
シマノの自転車用高級グリスデュラエースグリス